高齢者を支える取り組み
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淡路島は、瀬戸内海の東の端に位置する、人口13万人弱の小さな島です。高齢者人口比率は37.5%(令和2年2月現在)と高く、日本の20年先を行く、高齢化先進地域です。兵庫県立淡路医療センター(以下、当センター)は、淡路島で唯一総合機能を有する公立病院で、急性期医療・高度専門医療を一手に引き受けていますが、一方で、予防医学や地域包括ケアシステム推進の支援にも力を入れています。
このページでは、この3~4年の我々の取組を報告します。我々の取組に興味がある方は、どしどしご連絡ください。こんな淡路島で我々と一緒に働きたい方ももちろん大歓迎です。職種は問いません。
淡路島の地理的特徴
・四方を海に囲まれた半閉鎖地域
・離島でありながら神戸や徳島に近接しているため適当な人口と医療需要がある。
淡路島の特徴は、北は明石海峡大橋で神戸(本州)、南は大鳴門橋で徳島(四国)と陸続きとはいえ、四方を海に囲まれた半閉鎖地域である事につきます。入院患者の他圏域への流出割合は7.3%(平成29年3月入院患者調査 兵庫県医務課調べ)と低く、 救急車は基本的には橋を渡ることはなく、救急症例はほぼ100%島内完結です。もう一つの特徴は、離島でありながら神戸や徳島に近接しているため、適当な人口が淡路島にはある点です。 1955年(昭和30年)には214,908人であった人口も、2000年(平成12年)には159,111人に減少し、2020年4月時点では126,814人にまで減少しています。しかし、沖縄を除いた最大の離島である佐渡島は、面積は淡路島の1.4倍強ありますが、人口は53,952人(令和2年2月)にとどまります。つまり、淡路島は都会に近いという立地条件が幸いし人口は比較的多い事がおわかりいただけると思います。しかし、人口減少と高齢化は著しく、大きな課題であることは間違いありません。最近10年間の人口の推移と高齢化率の推移を図に示します。
淡路島の医療体制
・当センターが唯一の公立病院(DPC特定病院群)で、高度急性期・急性期医療で大きな役割を担っている。
・当センターと圏域内10病院の役割分担が明確
島内には、当センターを含む11病院、有床診療所3施設を含む119の診療所があります。島内の精神、結核、感染症を除くベッド総数は1624床で、内訳は高度急性期・急性期病床658床(40.5%)、回復期・慢性期病床が966床(59.5%)です。当センターは、地域救命救急センターを併設し、高度急性期・急性期病床を377床持っています。これは、淡路島全体の高度急性期・急性期病床の6割弱に当たり、淡路島の高度急性期・急性期医療に当センターの占める役割が極めて大きいことがお分かり頂けると思います。したがって、規模や機能が似通った競合施設が複数ある都会とは大きく異なっていて、淡路島の医療は、当センターを中心に役割分担が自ずとできています。ちなみに、当センターはDPC特定病院群(令和2年指定)に属していますが、人口が13万人に満たない圏域で実績要件を満たしうるのも、淡路島のきわめて特殊な環境があってのことです。
淡路島の地理的特徴と医療体制について説明しましたが、淡路島は医療において、たいへん特徴ある圏域である事がお分かりいただけたと思います。日本広といえども、このような圏域は他にはありません。つまり、当センターはとても特殊な立地条件にあります。
淡路島の特徴(まとめ)
地理・人口
- ・四方を海に囲まれた半閉鎖地域
- ・神戸大阪、徳島に近接し程々の人が生活する
- ・高齢化・人口減少・働き手不足
医療
- ・淡路医療センターは、
唯一の公立病院
唯一総合機能を有する病院で、救急・専門医療で大きな役割を担う(DPC特定病院群) - ・当センターと圏域内10病院の役割分担が明確
四方を海に囲まれた半閉鎖地域という環境は、医学研究には最適
淡路島を医療で元気にしたい!~淡路島を医療で元気にする会~
・元気がなくなっていく淡路島を目の当たりにして、淡路島をもう一度甦らせたいとの考えで立ち上げた“淡路島を医療で元気にする会”
・3市行政も加わったオール淡路島の取組で、淡路島を元気に。
私の淡路島でのキャリアは、平成5年から実に四半世紀に及びます。この間の経験は私にとって何物にも代えがたく、淡路島で外科医として大きく育ててもらったという思いを強く持っています。そのような中で、町の活気が徐々になくなって行くのを目の当たりにし、もう一度、淡路島を何とか元気にしたい。自分にできるのは医療なので、医療で淡路島を元気にできればとの思いから、平成29年11月に“淡路島を医療で元気にする会(以下、元気会)”を立ち上げました。淡路島を元気な高齢者であふれる島にできれば、もう一度淡路島を甦えらせる事ができるのではないか。そのような思いからこの会は生まれました。
それ以外にも、3市ともっと太いパイプを作りたいとか、高齢者を支えるために多くの人が汗をかいているのに、それが形として見えてこないのは、やはり縦割り社会の弊害で、誰かが横串を刺さないとせっかくの取り組みも台無しに終わってしまうのではという思いなどが、私の背中を押しました。元気会立ち上げ前には、私自ら3市に足を運び事前説明をしたのも、3市の方に元気会設立の趣旨を十分に理解してもらい積極的な参加を得て、オール淡路島での取り組みにしたかったからです。元気会発足当初のメンバーは、3市行政・3医師会・圏域病院・健康福祉事務所、そして当センターでしたが、骨粗鬆症の取り組みを行うようになり3歯科医師会にも加わっていただいています。現在まで6回の会議が重ねられ、“骨粗鬆症対策実務者会議”が下部組織として動いています。元気会立ち上げ前には、このような事業は圏域の医療を取り仕切る健康福祉事務所が行う事業で、圏域の中核病院とはいえ一病院が担うべきではないという意見も院内にはありました。しかし、健康福祉事務所の所長とて3~4年で代わってしまいます。一方で、私はこの四半世紀淡路島の中核病院で医療に携わり、今は院長という立場にあります。やはり、淡路島の医療をよく知るものが取り組んでこそ実りあるものになるのではないかとの考えから、元気会を立ち上げましたが、今は元気会を立ち上げて本当によかったと実感しています。
淡路島を医療で元気にする会
目的
- ・人口減少・高齢化で元気のなくなっている淡路島を、医療の面から元気にする。
- ・医療で元気にできれば、流入人口の増加も期待できる。
- ・地域包括ケアシステムの実施主体は市。
淡路医療センターもシステムを支援。
そのためには、市との連携・協力が必要。
参加者
3市行政・医師会・歯科医師会
健康福祉事務所・淡路医療センター
今までの取り組み
“骨粗鬆症実務者会議”を立ち上げ、骨粗鬆症対策を開始。
淡路島に多い大腿骨頸部骨折を減らしたい!~骨折予防の骨粗鬆症対策~
・淡路島に多い高齢者の脆弱性骨折。骨折を減らしたいとの思いから生まれた“骨粗鬆症対策実務者会議”で、骨粗鬆症対策をスタート。
・骨粗鬆症検診の対象年齢引き下げを行うなど、3市行政も積極的に参加。
・骨粗鬆症リエゾンサービスの普及によって、介護が必要な高齢者減少を目指す。
淡路島に多い高齢者の骨折。骨折は健康寿命を縮めると同時に介護費を押し上げます。まず、元気会は“骨折予防の骨粗鬆症対策”を取り組み事項に決め動き始めました。取り組みは始まったばかりですが、参加する3市行政や圏域病院の骨粗鬆症に対する関心は一気に高まりました。介護費がかさむ中で、市は骨粗鬆症検診の対象年齢を引き下げ、女性だけであった対象を男性へ拡げるなど、市民サービスの拡充に注力しています。圏域の病院にあっては、専門外来を設置する病院も出てくるなど、今まで以上に骨粗鬆症治療に積極的です。骨折予防のためには骨粗鬆症治療の推進がとても重要ですが、日常診療に忙しい担当医だけの努力には限界があります。そこで力を発揮するのが骨粗鬆症マネージャーで、各病院での養成の機運も高まり、実務者会議発足時には島内に1名のみであったものが、現在は12名にまで増えました。各人の意識も高く、骨粗鬆症マネージャー会が結成されるなど、充実した骨粗鬆症リエゾンサービスの実現を目標に、圏域の骨粗鬆症治療のけん引役を目指して頑張っています。骨粗鬆症リエゾンサービスが充実すれば、骨粗鬆症に関する啓蒙も進み、病病あるいは病診連携の充実にもつながります。そうなれば、今は多い脆弱性骨折も減少し、介護を必要とする高齢者も減るのではないかと、将来を大いに楽しみにしています。
尚、令和3年3月現在、NPO法人(淡路島骨を守る会(仮))の立ち上げ準備中です。
骨折を減らすための骨粗鬆症への取り組み
- ①骨粗鬆症対策・連携実務者会議
- ②検診の拡大
- ③1次・2次骨折予防の推進
- ④骨粗鬆症マネージャー育成
- ⑤骨粗鬆症マネージャーの連携による骨粗鬆症リエゾンサービスの推進
- ⑥医科歯科連携の推進
〈骨粗鬆症対策・連携実務者会議〉
メンバー:3市、3医師会、3歯科医師会、各病院、健福
2018年8月22日発足、年3回開催
現状・取組実績の報告、その課題を協議
〈淡路島骨粗鬆症マネージャーの会〉
2019年6月20日発足、現在まで2回開催
心不全パンデミック~再発を抑えるために有効な“心不全チーム”そして、淡路島だからできる高齢者の心不全研究~
・淡路医療センターに入院した心不全患者数はこの10年で倍増。さらに、心不全患者数は2035年にピークを迎えるまで増加が続く。
・病棟で威力を発揮する“心不全チーム”。その活躍で心不全の再発を41%抑制。一方、外来には無症状の心不全患者を見つけ早期治療へとつなぐ心不全専門外来を設置。
・四方を海に囲まれた半閉鎖地域という淡路島の特徴を生かした市中病院での心不全研究。ここで得た情報を日本の心不全パンデミックに活かす。
淡路島は、半閉鎖地域であるために適当な医療需要があり、かつ、当センターを中心に比較的しっかりとした医療が行われています。加えて患者さんの移動も少なく、データ取りには打ってつけの、疫学研究、臨床研究に非常に適した場所です。しかし、今まではまとまった研究が行われるでもなく、このような環境も宝の持ち腐れに終わっていました。
淡路島は、高齢化に関しては日本でもトップクラスで、高齢化率でみると日本を20年先行しています。一方、日本は高齢化で世界のトップを走っていて、高齢者の増加とともに心不全患者数の伸びも爆発的で、感染症になぞらえて“心不全パンデミック”と言われています。当センターの心不全入院患者数はこの10年で倍増し、心不全患者数も今後15年間は増加が続きます。まさしく淡路島は、“心不全パンデミック”の真っただ中にあります。このような状況の中で、当センターの循環器内科では2018年から心不全患者を減らすための取り組みを始めました。まず、再入院を減らす目的で同年6月に病棟に“心不全チーム”を立ち上げ、11月には無症状の心不全患者を早期に発見し治療につなげるために“心不全専門外来”を開始しました。心不全チームは多職種で構成され、週1回の心不全チームカンファレンスを実施し、再発の原因や在宅に戻るときに何が足りていないかなどを一例一例検討しています。この取り組みが始まる前に11.0%であった再発率は、現在では6.5%までに抑えることができています。研究としては、半閉鎖地域という地の利を生かし、急性心不全横断研究と慢性心不全患者の前向き観察研究が、神戸大学と国立循環器病研究センターの協力のもと行われています。心不全の早期発見・早期治療や重症化予防は健康寿命の延伸、介護費の軽減につながります。研究の成果として心不全リスク因子がわかれば、検診に活かすことで早期治療が可能になります。淡路島発の情報が、将来の日本の心不全治療に影響を与える。この研究にはそんな夢と希望があります。
心不全チームの立ち上げと早期再入院予防プロジェクト
心不全チームの立ち上げ(H30.6月末~活動)
・早期再入院予防プロジェクト
早期再入院予防プロジェクト
・週一回心不全チームカンファレンス
・なぜ心不全を起こす、悪くなったのか検討
・家に帰るにあたり何が足りていないのか共有
心不全横断研究(KUNIUMI trial I)
淡路医療センターを含む淡路島内の一般病床を有する全病院に、2015年1月から3年間に入院した心不全患者1093例を対象に、年齢・性別調節を行い、 日本の現在・未来の心不全患者数を推計する日本初の研究。
KUNIUMI trial III~Registry of Chronic Heart Failure in Awaji Island~
目的
①淡路島における慢性心不全の動向を検討することで、未来の日本における心不全治療の課題を知る。
②心不全の周知・広報。
デザイン
前向き観察研究
単施設
試験期間
2019年4月~エントリー(予定)
1年ごとに永続的に追跡
KUNIUMI registry
研究項目
① 高齢社会における心不全症例の特徴と予後を明らかにする
② 無症候から症候性心不全への進行過程を観察
③ 心不全の進行、QOLに与える影響の調査
④ 高齢心不全患者を取り巻く生活環境と予後の関連を検討
⑤ 心不全患者における心機能・併存疾患の経時的変化を調査
心不全による再入院を抑えるための“診療応援”と“退院前カンファレンス”“退院前後訪問”
・転院した心不全患者の再発を抑える目的で始めた、循環器内科専門医による連携病院への診療応援。
・心不全患者を在宅へとつなぐために重要な“退院前カンファレンス”“退院前後訪問”。
心不全では、再発を繰り返しながら徐々に心機能が悪くなっていきます。“心不全チーム”の活躍で再発を抑えることができるようになりましたが、せっかく当センターを退院しても、自宅や転院先で調子が悪くなって当センターに舞い戻ってくる患者さんは、まだまだ後を絶ちません。また、転院先の病院からは、退院が間近な患者さんが再発をおこし、退院できなくなってしまったということを聞くこともあります。つまり、高齢者には再発はつきもので、再発は入院期間の延長に直結します。当センターの入院患者さんに占める85歳以上の割合は17%。当センターの連携病院では、入院患者の実に半数以上が85歳以上です。つまり、年を取れば病気はつきものですが、それに輪をかけるのが再発です。高齢者は今後も増え続けるので、このままでは病棟がパンクしてしまいます。何とか再発による再入院の連鎖を断ち切れないか。心不全の再発を抑えるには、先に触れた“心不全チーム”が威力を発揮しますが、さらにそれを支えるために次のような二つの取り組みを始めました。
1)診療応援
島内の連携病院には循環器内科専門医はいません。そこで、令和元年10月から当センターの循環器内科医が島内4カ所の連携病院に診療応援を始めました。具体的には、連携病院での入院患者さんの診察、外来通院中の患者さんの外来診察を行っています。もちろん、連携病院スタッフへの教育も、再発を抑えるためには重要です。診療応援を求める連携病院は増加し、令和2年9月現在、7カ所の病院に診療応援を行っています。
2)退院前後訪問、退院前カンファレンス
当センターに入院する心不全患者さんの再発抑制に重要な役割を担っているのが心不全チームの存在で、その活動を効率的にサポートするのが退院前カンファレンスです。ここで、家族や訪問看護師から得られた情報は、心不全チームの活動に活かされます。さらに、看護師による退院前の患者宅訪問は、患者さんの生の生活環境を見るまたとない機会になり、再発を抑えるのに役立ちます。例えば、自宅に階段や段差があると、退院後は再発の大きなリスクになります。このように退院前訪問や退院前カンファレンスは、患者さんや家族から生の情報を得る絶好な機会になると同時に、心不全チームと訪問看護師をつなぐ場にもなります。高齢者では退院後の生活を訪問看護師が支えることも多く、入院中の療養や治療の状況を訪問看護師にいかに効率よく伝えられるかによって、在宅移行がスムーズにいくかどうかが決まるといっても過言ではありません。たいていの場合、退院前訪問や退院前カンファレンスで十分な情報共有ができるので、これらがしっかり機能していれば訪問看護師へのスムーズな引継ぎは可能です。しかし、患者さんの状態によっては病棟看護師による退院後訪問があると在宅移行をさらにスムーズにきる場合があり、このような時には退院直後の1か月間だけ病棟看護師による退院後訪問を実施しています。
生涯現役!あわじ健康長寿の島づくり事業
・淡路県民局が行う「生涯現役!あわじ健康長寿の島づくり」事業。「骨折と骨粗鬆症」「心不全」「口腔ケアと誤嚥性肺炎」を中心に健康寿命の延伸対策を行い、高齢者就労・高齢者に優しい淡路島農業の推進もあわせ、健康長寿の島づくりを目指す。
前に触れた「淡路島を医療で元気にする会」(第一回平成29年11月開催)を持つ中で、吉村前々淡路県民局長に医療で淡路島を元気にするというコンセプトをご理解いただき、「生涯現役!あわじ健康長寿の島づくり」事業が実現しました。この事業の概要は別に示しますが、“栄養”“運動”“社会参加”を3本柱に、健康寿命の延伸対策だけでなく、社会参加という側面からも、高齢者就労促進の取り組み(県民交流室)や、高齢者に優しい淡路島農業の展開(農林水産振興事務所)も取り組みに据えられています。つまり、現在まで当センターが力を入れてきた「骨折と骨粗鬆症」「心不全」に、新たに「口腔ケアと誤嚥性肺炎」を加えた3疾患・分野を重点に据え、洲本健康福祉事務所を中心に複数の関係機関が連携・協力し、健康寿命の延伸に向けて住民全体の意識啓発を促す。加えて、高齢者の就労支援を行ない生涯現役の実現をサポートする。最終的には、淡路島を元気な高齢者であふれる、希望に満ちあふれる健康長寿の島にするというのがこの取り組みです。
1.事業の趣旨
淡路島の人口はピーク時に比べて4割以上減少して13万人を切り、また、65歳以上高齢化率が37.0%と県下で最も高齢化が進んでいる。一方で、65歳以上就業率が31.2%と県下で一番高く、健康な高齢者が元気に活躍している地域でもある。 このため、高齢者がいきいきと安心して暮らせる「健康長寿の島」の実現を目指し、“栄養”“運動”“社会参加”の3本柱を中心に高齢者の健康状態や生活習慣について様々な調査を活用して科学的に分析し、県民局だけでなく県立淡路医療センター、島内3市、医師会、歯科医師会、いずみ会など関係機関・団体が連携して、淡路島の特性を踏まえ適切な健康寿命の延伸に取り組むとともに、あわじ環境未来島構想に掲げる「暮らしの持続」の具現化を図り、高齢者の健康の向上を軸として、積極的な社会参加、就労の促進などを総合的に進める。
2.事業内容
(1)「あわじ健康長寿の島づくりプロジェクト会議」の開始
(2)健康長寿の島づくりに向けた調査・分析の実施
(3)住民の意識啓発や関係者の認識を深める講演会などの開催
(4)高齢者就労対策事業の実施
(5)高齢者に優しい淡路島農業の展開
圏域の限られた医療資源の有効活用:病院間での活発な人事交流
・人口減少と高齢化。当然、働き手は少なくなり、医療者の確保もたいへんに。
・限りある医療資源を有効に活用するのに有効な病院間の人事交流。
・循環器内科医による診療応援。リハビリが充実する地域の病院から当センターへのリハビリスタッフの派遣。積極的な人事交流で、地域の医療を活性化する。
人口減少と高齢化の著しい当圏域では、働き手の減少も顕在化しています。そのような中で、病院間の連携を深めつつ医療従事者の交流を図り、圏域の医療レベルの維持・向上に努めています。先程述べた医師の診療応援もその一つで、循環器内科以外にも脳外科と精神科で診療応援が行われています。もう一つは、リハビリスタッフの充実している周辺の病院からは、リハビリスタッフの不足する当センターへ、その派遣を行ってもらっています。リハビリスタッフが決して潤沢でない当センターにとっては、リハビリスタッフの確保ができて大助かりです。一方で、派遣元にとっては自院のリハビリスタッフに急性期のリハビリ経験を積ますことで仕事の幅が出来るので双方得るところが大きく、win-winの取り組みです。今後は、他の職種にも人事交流の輪を広げたいと考えています。
今後、淡路島のような圏域では医療従事者の確保は、今以上に困難になります。限られた医療者をいかに活かすか。そのためには圏域内の関係者の工夫と努力が欠かせません。新たな医療人材の育成も是非とも必要ですが、今ある人材を最大限有効に活用する。そして、圏域全体としての医療レベルの向上を目指す。そういった考え方が是非とも必要だと考えています。
循環器内科医派遣先病院
(当センター→圏域病院)
リハビリスタッフ派遣元病院
(圏域病院→当センター)
地域連携推進法人で病院間の連携をさらに強固に。
そして、地域で働く医療者の育成を。
・圏域で進む病院間連携をさらに強固に。そして、持続性のあるものにするための地域連携推進法人。
・同法人に参加する施設の力を結集し、健康長寿の島づくりを推進。
・淡路島にある3つの医療者養成施設と協力し、淡路島に生まれ育った人材を淡路島で働く医療者として育成する。
圏域内の病院の院長連はほとんどが同年代で、そんな事も手伝い病院間には良好な関係が築けています。そんな中で、前項でも触れたように病院間の人事交流は順調に進んで来ました。しかし、現在の院長が一人抜け、二人が抜ける。世代交代がおこればこんな関係も一気に萎んでしまうのではと、時に不安に感じることがあります。そんな不安を拭うのが法人化。一旦法人化さえしておけば病院間の連携を持続的なものにできるのではと考え、現在、地域連携推進法人の設立準備をしています。連携を持続可能なものにしておくためには多少の汗も必要でしょう。令和2年9月以降協議を重ね、令和3年秋の設立を目指して準備を進めています。この法人設立の目的は二つ。一つが病院間の連携を強固にし、健康長寿の島づくりに貢献する事。そして、もう一つは地域に働く医療者の育成です。今後、高齢化と共に働き手の減少は大きな課題です。医療や介護を将来的にも持続可能なものにして行くためには、医療を担う、あるいは介護を担う人材の確保が欠かせません。現状でも人材確保には汲々としています。今後、働き手がさらに減少すれば人材確保はそれこそ大変で、患者さんはいるのに人手が確保できないので病院縮小を迫られると言う事もおこり得ます。しかし、人材確保に困っているのは何も我々の圏域に限った事ではありません。日本全国どこともに人材確保には厳しい現状です。そんな中では、待っていても誰も医療者の確保を手伝ってくれません。必要な人材は自分達の手で。つまり、淡路島で育った人を淡路島で医療者に育て上げ、淡路島で働いてもらう。そうして、淡路島の医療を少しでも元気にして行く。幸い淡路島には3つの医療者養成施設があります。ここで学ぶ学生さんに、在学中に学びを通して淡路島に慣れ親しんでもらって、淡路島に働きたいと感じてもらう。あるいは、島内で生まれ育った者を島内で教育し、島内で働いてもらう。その様な取組が、働き手が減少する中では是非とも必要と考え、本法人には島内3つの医療者養成施設にも参加を依頼しました。この趣旨を丁寧に説明したところ、3施設すべてに参加してもらうことが叶いました。
医療者育成には、行政の理解と協力も欠かせません。本法人から積極的に働き掛ける事で、近い将来、行政の協力も得たいと考えています。淡路島を医療で元気にしていくためにも、そこで働く医療者の確保は欠く事はできません。
病院に滞留する高齢者。
滞留を解消する仕組み作りがなければ、近い将来、急性期医療はピンチに!
・圏域内の病院にあふれる85歳以上高齢者。
・地域で生活する高齢者には独居や老々介護が多く、病院での治療が終わってもこのような高齢者は簡単には自宅に戻れない。
・近い将来、急性期病院にも高齢者の波。治療が済んだ高齢者がスムーズに退院できるような仕組みづくりがなければ、急性期医療の維持はピンチ。
ここ3~4年の取り組みの概略は、これまでに述べた通りです。
最近、私は85歳以上の高齢者の増加が、高齢化の進んだ淡路島でも2035~2040年まで続く事(表1)に大きな危機感を抱いています。75歳以上が後期高齢者として一括りにされていますが、75歳から84歳までの高齢者と比較し、85歳以上になると医療の必要度・介護の必要度が桁外れに大きく(表2)なります。詳細は、埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科教授の川越雅弘先生が報告されている他稿1)をご覧ください。
今でも圏域内の病院は85歳以上の高齢者であふれています。当センターでの、入院患者に85歳以上の高齢者が占める割合は16~18%ですが、当センター以外の病院では、ほぼ半数が85歳以上の高齢者です。では、なぜ高齢者で溢れるのか。それは、これらの高齢者は病院での治療が終わっても簡単には退院ができないからです。前にお示ししたように、85歳以上の高齢者の半数は介護サービスを必要としています。しかし、これらの高齢者には独居や老々介護が多く、病気にならなければ何とか一人で生活できる、或いは配偶者の世話ができていたのですが、一旦、病気になってしまうと途端にそうは行かなくなってしまいます。老々介護の家庭なら、いっぺんに二人とも施設入所が必要になる事もあります。しかし、地域は脆弱でそう簡単に受け皿は見つかりません。病院のMSWや地域包括支援センターの職員が駆けずり回ってくれるのですが、調整は簡単ではありません。そうこうしていると、一旦よくなっていた病気が簡単に悪くなってしまうのが高齢者の困ったところで、治療が振出しに戻り入院が長くなってしまいます。一昔前の大家族なら少々のことはマンパワーが解決してくれましたが、娘息子が都会で暮らし、高齢者だけの家族が多い地方では問題は深刻です。われわれのような中核病院は、後方病院である地域の病院が頑張って高齢者を引き取ってくれるので助かっていますが、一方で高齢者を引き取った地域の病院は、先ほど説明したような理由で高齢者の滞留が生じ、結果的に一般病棟でも入院患者の半数が85歳以上の高齢者が占めることになってしまっています。
こんな状況が続くと、退院できない高齢者で病院のベッドが占められ、病気で一刻を急いでの入院治療が必要な患者さんが入院できないという困った状況が、近い将来訪れる事は簡単に予想ができます。地域で暮らす高齢者には経済的にそれ程余裕はありません。したがって、そのような状況を作らないためには、比較的安価に入所できる高齢者施設も必要です。一方で、訪問診療、訪問看護や訪問介護で支える事も一つでしょう。将来的には、高齢者も減少に転じるので、今から箱物を作るのが得策ではないなら、今一度の検討が必要で、知恵を絞るべきだと思います。
私は、急性期医療の立場にある人間ですが、今後、この地域で急性期医療を持続可能なものにして行くためには、急性期を脱した高齢者の受け皿作りをしっかりし、高齢者が病院に滞留しない仕組みづくりが必要だと、最近、特にそんな思いを強くしています。
淡路島の将来人口推計
国立社会保障・人口問題研究所 平成30年推計
65歳以上 | 2015 | 2020 | 2025 | 2030 | 2035 | 2040 | 2045 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
洲本市 | 14779 | 15099 | 14735 | 14249 | 13725 | 13267 | 12409 |
南あわじ市 | 15723 | 16094 | 15799 | 15285 | 14608 | 14159 | 13265 |
淡路市 | 15965 | 16261 | 15868 | 15108 | 14332 | 13789 | 13019 |
合計 | 46467 | 47454 | 46402 | 44642 | 42665 | 41215 | 38693 |
75歳以上 | 2015 | 2020 | 2025 | 2030 | 2035 | 2040 | 2045 |
洲本市 | 7586 | 7824 | 8878 | 9128 | 8730 | 8123 | 7670 |
南あわじ市 | 8333 | 8429 | 9413 | 9721 | 9469 | 8908 | 8267 |
淡路市 | 8831 | 8946 | 9748 | 10009 | 9642 | 8928 | 8279 |
合計 | 24750 | 25199 | 28039 | 28858 | 27841 | 25959 | 24216 |
85歳以上 | 2015 | 2020 | 2025 | 2030 | 2035 | 2040 | 2045 |
洲本市 | 2647 | 2931 | 2911 | 3102 | 3842 | 3792 | 3402 |
南あわじ市 | 3061 | 3423 | 3402 | 3483 | 4238 | 4292 | 3963 |
淡路市 | 3370 | 3716 | 3703 | 3826 | 4440 | 4532 | 4180 |
合計 | 9078 | 10070 | 10016 | 10411 | 12520 | 12616 | 11545 |
表1
高齢者の年齢階級による医療・介護ニーズの差異
65~69歳 | 70~74歳 | 75~79歳 | 80~84歳 | 85歳以上 | |
---|---|---|---|---|---|
通院者率(%) | 62.4 | 68.4 | 73.6 | 75 | 71.4 |
医科外来受診率(%) | 6.6 | 8.8 | 10.6 | 11.1 | 9.5 |
入院受療率(%) | 1.4 | 1.8 | 2.6 | 3.9 | 6.6 |
介護サービス受給率(%) | 2.2 | 4.7 | 10.5 | 23.3 | 51.4 |
表2
将来展望
私が院長に就いてから6年間に進めてきた取組をまとめてみました。最初の2年間は暗中模索。取り組みが動き始めたのは平成29年からです。それからの4年間はあっという間でしたが、振り返ってみると、淡路島の医療に小さな爪痕位は残せたのかなと思っています。
私は、この3月いっぱいで急性期医療は卒業し、4月からは回復~慢性期医療に関わって行きます。先にも触れたように、高齢者が病院にあふれているのが現状で、このままでは、近い将来、急性期医療が経ちいかなくなってしまいます。そこで、高齢者が病院に滞留しないシステム作りがなんとかできないかと考えています。課題解決には、高齢者が病後も生活できる場の確保が必要です。高齢者には経済的な余裕がない者も多い事や、20年後の高齢者の減少も考えておかなくてはなりません。問題は複雑ですが、このままでは多くのものが困ります。
課題解決には行政の協力も是非とも必要ですが、何より重要なのは“工夫”、だと思っています。世の中は大きく変わりつつあります。何事にも発想の転換が求められていますが、それが最も難しい事にも頭を痛めます。
令和3年3月
小山隆司
参考文献
1)川越雅弘:ケア提供論‐多職種連携に焦点を当てて 社会保障研究 vol.1 no.1 112-128